兵士たちの肖像
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中世ヨーロッパ歩兵の現実|歩兵の恋愛事情──戦争と恋は似ている?

佐藤直哉(Naoya sato-)
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はじめに

戦争と恋愛。
どちらも心を揺さぶり、時に人生を大きく変えるイベントです。

けれども中世ヨーロッパの歩兵にとって、この二つは思いのほか似た体験でした。
出征前の永遠の誓い、戦場からの戦利品や恋文、そして帰還後に待ち受ける「別の男」の影──現代の恋バナにも負けないほど、波乱に満ちた恋模様がそこにはありました。

今回は、そんな中世歩兵たちの恋愛事情をご紹介します。
歴史を身近に感じながら、時にクスッと笑い、時にしみじみできる読み物です。

※本記事はエンターテインメント目的で制作されています。

戦と恋は「待つ技術」

「ちょっと40日だけ戦に行ってくるわ」
──そんな軽いノリでは終わらないのが歩兵の出征。

騎士が負担する「年40日」の軍役とは違い、歩兵や傭兵は長期契約で拘束されるのが常でした。
つまり恋人や配偶者は、相手の帰還を気長に待つスキルを磨かざるを得なかったのです。

恋も戦も共通するのは、

  • 予定通りにいかない(帰還日も既読も不明)
  • コストがかかる(兵糧と生活費、贈り物は換金必須)
  • ルールに縛られる(軍律と教会法)

…つまり“予測不能ゲー”という点でそっくり。
LINEが既読にならないだけでもソワソワする現代人なら、中世の待つ恋の苦しさは想像を絶するでしょう。

出征前の約束──司祭よりも「同意」が先

12世紀以降の教会法では、「当人同士の同意」だけで結婚が成立しました。

司祭の立ち会いがなくても、手を結ぶ「ハンドファスティング」や口約束で婚約するカップルも多かったのです。
現代で言えば「入籍前提の同棲」くらいのグレーさでしょうか。

歩兵の若者たちにとって、出征前の「愛してる、待っててくれ」という約束は、法的にも社会的にも曖昧な婚約でした。
だからこそ、約束の重みは人それぞれ。

ある者にとっては永遠の誓い、別の者にとっては「とりあえず置いてけぼりにしないための方便」だったのかもしれません。

行軍する家庭──トロスと呼ばれた生活共同体

戦場は男だけの世界ではありません。

14〜16世紀の長期遠征では、兵士に妻や恋人、家族が同行することも多く、キャンプ・フォロワーと呼ばれる生活共同体が形成されました。
ドイツの傭兵ランツクネヒトの陣営では、これをトロス(Tross)と呼びます。

そこには洗濯婦、縫い子、行商人、さらには娯楽を提供する人々までが含まれ、軍隊は「戦う組織」であると同時に「暮らす村」でもあったのです。

臨時婚姻や規制による“便宜的カップル”も登場し、愛と生活がごった煮状態。
ドラマのリアリティショーより複雑な人間模様が繰り広げられていたと想像できます。

都市が管理した恋の出口──公営遊郭

兵士の欲望は、都市にとって治安問題でもありました。

そのため中世の一部都市では、公営・公認の遊郭を設けて、料金・営業時間・区域を規定。
いわば「ラブもインフラ整備の一環」として管理していたのです。

「恋は自由」なんて言葉は美しいですが、実際には市役所の条例で恋の行動範囲が決められていたわけです。

これぞ中世的なロマンと現実のギャップでしょう。

恋文と保護状──遠距離恋愛を支えた文字の力

「会えない恋」を支えたのは手紙。

しかし識字率の低さゆえ、自筆のラブレターはレアアイテムでした。
多くは聖職者や書記が代筆したもので、内容は「元気でやってます」「祈っててください」といった事務的な報告が中心。

百年戦争期のイングランドでは、兵士が自分や家族の財産を守るために保護状や代理人任命状を取得しました。
これは事実上、家族へのラブレター兼生命保険証

届くか分からない手紙より、法的に効力のある文書のほうが安心だったのです。

戦利品は愛の証?──贈り物のリアリズム

「戦利品を恋人にプレゼント」なんてロマンチックな話を想像しますが、実際には換金性重視の実用品が主流でした。(ひょっとしてこれは今もか……?)

衣類、硬貨、器物など、生活を支える現実的な贈り物が多く、これをキャンプに同行した女性たちが管理・売却して家計を助けました。

もちろん、指輪や小箱に刻まれた短い言葉のように、個人的な愛の印もありましたが、それはあくまでスパイス程度。

愛のプレゼントは“映え”ではなく“回る”ことが重要だったのです。

帰還の現実

「別の人と…」は罪か、それとも生存戦略か

最も苦いテーマが、帰還した兵士を待っている“現実”です。

教会法では、行方不明の配偶者が死亡と確認されない限り、再婚は原則NG。
つまりどんなに長く不在でも、妻が新しい相手を見つければ重婚扱いになる可能性がありました。

しかし現実には、数年単位で不在となる歩兵の家族は生活苦に直面します。
残された妻や恋人が他の男性に支えを求めることは、罪というより生存戦略でした。
兵士が帰ってきたとき、必ずしもハッピーエンドでは終わらなかったのです。

まるで「信頼は前払い、帰還は後払い」という残酷なシステム。
キャッシュフローが詰まれば、恋も破綻する
──そんな会計処理が中世の愛の現実でした。
(これは今もひょっとして今もか……?)

最後に

戦と恋は補給線の物語

歩兵たちの恋愛は、制度(教会法や軍律)、距離(遠征や駐屯)、文字(手紙や公文書)、お金(賃金や戦利品)、そして共同体(トロスや都市)が複雑に絡み合った生活の戦場でした。

恋は壮大な叙事詩ではなく、細い補給線を必死に守る営み。

その小さな実務
──指輪に刻まれた言葉、代筆された一文、保護状の署名、換金された布地──
すべてが「生き延びるための愛の技術」だったのです。

行軍の夜、消えかけた燭台に油を注ぐように。
恋もまた、燃え尽きるのではなく、少しずつ注ぎ足されて続いていく
それこそが、中世歩兵が残した恋愛のかたちでした。

4コマ漫画「恋の補給は現金なり」

ABOUT ME
佐藤直哉(Naoya sato-)
佐藤直哉(Naoya sato-)
ブロガー/小説家
小説を書いていたはずが、いつの間にか「調べたこと」や「感じた違和感」を残しておきたくなりました。
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「なんかどうでもよさそうなのに、気になる」
──そんな話を集めて発信しています。
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