中世ヨーロッパ歩兵の現実——戦う前に怖いのはトイレ事情だった!?

はじめに

甲冑の中で震えていたのは…お腹?
「中世の戦場」と聞いて、あなたはどんなイメージを思い浮かべますか?
キラリと光る甲冑、槍を構える兵士、敵陣に突撃する勇敢な歩兵たち──。
しかし実際には、戦う前から彼らを恐怖させていたものがあります。
それは敵軍の槍ではなく、トイレ事情でした。
硬い甲冑に身を包んだ兵士にとって、「腹痛=戦闘不能」
さらに劣悪な衛生環境が、兵士たちの命を容赦なく奪っていったのです。
※本記事はエンターテインメント目的で制作されています。

1. 「血の下痢」が軍を崩壊させた

1415年、ヘンリー5世が率いたイングランド軍はフランスのアルフルールを包囲しました。
勝利目前と思いきや、兵士を次々に倒したのは剣でも弓でもなく
──bloody flux(赤痢)。
ラテン語では「fluxus ventris」と記録され、兵士の5分の1が下痢で戦闘不能になったと伝えられています。
包囲戦では衛生環境が壊滅的に悪化し、排泄物と水が混ざり合う。
それが軍隊の最大の弱点となったのです。
甲冑よりも腹を守ることが先決だった、というのは笑えない事実でした。
2. 野外トイレは“穴を掘るだけ”

歩兵キャンプにあったのは、せいぜい土を掘っただけの簡易トイレ。
位置が悪ければ水源を汚染し、すぐに悪臭が広がります。
一方、城には「ガーダローブ(garderobe)」と呼ばれる張り出し式のトイレが設置されていました。
下は堀や深い穴につながり、時々「ゴング・ファーマー」と呼ばれる清掃人が汚物を処理したとか。
……正直、
歩兵からすると「城のトイレはうらやましい!」としか言えなかったでしょう。
3. “寄生虫だらけ”の腸内事情

考古学の最新研究によると、中世の修道士の墓から回虫や鞭虫の卵が多数見つかっています。
感染率はなんと58%。
トイレの排泄物を肥料として畑に使ったため、食卓に再び寄生虫が戻ってきたのです。
つまり、トイレ→畑→食事→腸→またトイレ……という“最悪のループ”。
歩兵たちも例外ではなく、戦場に立つ前からすでに腸内は寄生虫の戦場だったのかもしれません。
4. 「臭い」と「漏れ」は法廷問題に

14〜15世紀のロンドンでは、隣家からのトイレの臭気や漏水をめぐってしょっちゅう裁判が起きていました。
都市住民でさえ衛生トラブルに頭を抱えていたのですから、数千人がひしめく軍営で問題が出ないはずがありません。
「敵よりも味方のトイレが危険」というブラックジョークが、当時の兵士たちの本音だったでしょう。
5. 軍事マニュアルにも「トイレ配置」が登場

女性作家クリスティーヌ・ド・ピザンが1410年頃に著した『Le Livre des Faits d’armes et de chevalerie(戦争と軍事技術の書)』には、軍営の設置において水源や風向きを考慮する重要性が記されています。
これは深読みをすれば、「トイレを間違った場所に掘ると軍が全滅する」という認識が当時からあった証拠となるのではないでしょうか。(ちょっと強引かな……?)
この読みが合っていればトイレの設営は兵站の一部であり、戦略と同じくらい重要だったということになります。
※勝手な解釈です。
6. 士気を下げる“人間の尊厳問題”

現代でも「トイレ問題」は旅行や災害時の大きなストレス要因ですが、中世の兵士にとっては命がけでした。
甲冑を着たままの排泄、寄生虫だらけの食事、不衛生なキャンプ──。
これらは単なる不便さではなく、人間の尊厳を揺るがす問題だったのです。
「戦う前にまずトイレの場所を確認したい」という気持ち、現代のキャンプ初心者と大差なかったのかもしれません。
最後に

勝敗を決めたのは“剣”ではなく“穴”だった
中世の戦場で兵士たちが本当に恐れていたのは、敵の矢ではなく自軍のトイレ事情でした。華やかな戦闘画の裏側で、歩兵は常に「お腹」と「トイレ」という二大敵と格闘していたのです。
結局のところ、戦局を左右したのは剣の切れ味や騎士の栄光ではなく
──どこに穴を掘るかという単純かつ深刻な問題でした。
つまり、補給や食料だけでなく「トイレの場所」こそが兵站の核心だったのです。
もしタイムスリップして当時の歩兵にアドバイスできるなら、勇ましい言葉よりまずこれでしょう。
「剣を研ぐ前に、スコップを握れ!」
4コマ漫画「戦場の穴」
